犬(トイ・プードル)の動脈管開存症の手術について(心臓手術)

当院では動脈管開存症の手術を実施しております。その一例についてお話しいたします。


※ 一部、手術中の画像があります。あえてあまり解像度の高くない画像にしていますが、苦手な方は見ないようにお願いします。
※ ご家族の許可を得て掲載させていただいております。

今回は、トイ・プードルのモカちゃんが長野県の病院からご紹介を受けて遠いところまで来てくれました。
モカちゃんは幸い重たい症状はないものの、先天的な心臓病のせいで胸に触れるだけで手のひらにビリビリと伝わってくるほど(スリルと言い、グレード分類で6段階中5以上の心雑音で認められます)の大きな心雑音が聴取されました。
そしてまだ4ヶ月なのに、3つの心臓のお薬を毎日2回飲まなくてはいけない状態でした。

まずは正常な心臓の血液の流れをご説明します。心臓は左右に分かれており、右心系は体から戻ってきた酸素の少ない血液を肺へ送り出す役割があります。左心系は肺から戻ってきた酸素の多く含んだ血液を体へ送り出す役割があり、二つの循環は独立しています。

動脈管開存症(PDA : Patent Ductus Arteriosus)は、犬で見られる先天性心疾患の中では最も発生頻度の高いものとしれ知られています。
動脈管は胎子が子宮内で発育するために必要不可欠で、この血管があることで胎子循環が成立しています。
胎子の頃は肺呼吸ではなく、母体から酸素供給を受けているため肺の血管は閉じており、肺に血液を送る代わりに動脈管を通して大動脈に血液が流れ込み、全身へと送られます。

しかし、出生後は大きく状況が変化します。肺呼吸が始まり、肺の血管が開くことで大動脈と肺動脈の圧力が逆転します。そのため、動脈系と静脈系を完全に分断しなくてはいけないため、動脈管は通常生まれた後にすぐに閉鎖することになります。しかし、この血管が開放されたままの状態になってしまうことがあり、大動脈から肺動脈に向かって多くの血液が流れてしまいます。そのために様々な症状(疲れやすい、呼吸が苦しい)を発症する場合があり、動脈管開存症と呼びます。

この病気は70%が1歳未満で心不全を発症し、積極的な治療を行わなかった場合、診断からの一年生存率は35%と報告されています。

しかし!外科手術を行うことで良好な生命予後を得ることができ、生存期間中央値は11.5年以上と報告されています(寿命を全うできる可能性が高い)。

ただし、この病気は重度に進行すると肺の血圧が高くなる肺高血圧症という状態に陥り、血液の流れが「大動脈 → 肺動脈」から「肺動脈 → 大動脈」というように逆転してしまう(アイゼンメンジャー化)ことがあり、手術不適応の状態になってしまいます。そのため、診断後にはなるべく早期に閉鎖する必要があります。

モカちゃんの心臓は来院時にはすでにとても大きくなっており、早期の手術が必要であると判断されたため、今回は開胸下にて直接的に動脈管を糸で結紮する手術を行いました。

手術をするためには麻酔をかける必要があります。麻酔はすでに非常に大きくなってしまっている心臓に負担が少なく、胸を開くという痛みを最大限に取り除くための薬剤の組み合わせを選択し、さまざまなトラブルを想定して準備をしておきます。
ゆっくりと麻酔をかけて、第4肋間を開胸し、肺を傷つけないようによけて心臓が見えるようにします。
動脈管もすぐ目の前に見えました。動脈管を周囲組織から剥離して、血管の裏に糸を通してしっかりと結びます。

無事に結紮が終了したら閉胸して手術は終了です!

手術前に心臓超音波検査で認められていた短絡血流はなくなり、心雑音もきれいになくなりました。

↓心臓超音波検査の動画はこちら↓
PDA術前・術後

とても大きかった心臓も正常な大きさまで術後わずか2-3日で戻りました。

そして無事に毎日2回飲んでいた心臓のお薬も全てやめることができました。

外科の力ってすごいですね。

本当にモカちゃん手術とても頑張りました!!

大きな手術の数時間後にはモリモリご飯を食べて次の日には短時間ですが、楽しくお散歩にも行きました♫

↓お散歩動画はこちら↓
モカちゃん

これで健康な子たちと一緒に遊んだりすることもできるようになって普通の寿命を生きていけるようになるはずです!
元気に暮らしてね!

動脈管開存症などの先天的な心疾患を含め、心臓病の診断・治療のご相談がございましたら、どんな悩みでも構いません。
どんなことでもお気軽にぜひ当院(荻窪桃井どうぶつ病院 / 杉並動物循環器クリニック)までお問い合わせください。

院長 木﨑 皓太 (獣医循環器認定医)