【症例2】猫の肥大型心筋症 ACVIM ステージ B1 雑種日本猫

今回は猫に多い肥大型心筋症の症例の紹介です。

9歳の去勢済みの男の子の雑種の日本猫、健康診断を受けに来たところ血液検査のNT-proBNPという項目で数値が高かったため精査を行いました。

この時点では症状は特にありませんでした。

心臓からは雑音も聞こえませんでした。

NT-proBNPは心臓のバイオマーカーで、心室の筋肉に負担がかかると上昇します。猫に多い心臓病で心筋症で上昇する他、甲状腺機能亢進症、高血圧症、腎臓病などでも上昇することがあります。

よって、検査の内容は血圧測定、心電図検査、胸部レントゲン検査、心臓超音波検査、甲状腺ホルモン(T4)測定となりました。腎臓は健康診断の血液検査で異常値はありませんでした。

血圧は最高154mmHg、最低84mmHg 、平均103mmHgとプレ高血圧、いわゆる正常と高血圧の境界域のグレーゾーンでした。

この子は病院猫のほうじちゃです。こんな感じでしっぽで血圧測定をしています。

心電図ではリズム不整はなく、正常洞調律でしたが、II 誘導で R波が 1.2 mVと高くなっており(正常は0.9 mV以下)、心筋肥大が疑われました。

R波の増高を認めた猫の心電図

胸部レントゲン検査では心臓のかたちや肺の状態に異常は認められませんでした。

右を下にして横になってもらって撮ったレントゲン
(ホームページ用に画面をiPhoneで撮影したら画質が粗くなってしまいましたが実際はもっと鮮明です)
伏せのポーズで撮ったレントゲン

心臓超音波検査では重度の左室心筋の肥大が認められましたが、左心房は拡大していませんでした。また、投薬が必要となるようなその他の異常な病態もありませんでした。

心筋が >6mmと明らかな肥厚がみられる。IVSd(心室中隔の厚み)、LVPWd(左室自由壁の厚み)、LVIDd(左室内腔)
左心房の大きさは正常。大きくなってくると予後が悪い

次の写真は正常な猫の心筋です。心筋の厚みは大体3.5mm程度です。
今回紹介している子の心筋がとても分厚いのがお分かりいただけるでしょうか。

最後に甲状腺ホルモンの測定ですが、T4は 2.1μg/dLと正常のため、甲状腺機能亢進症は否定的でした。

このような検査結果から、心筋を肥大させる二次的な要因(甲状腺機能亢進症、高血圧、心臓腫瘍など)はないため、肥大型心筋症の心臓に対する治療は現時点では必要ないと判断しました。

しかし心筋肥大は重度のためいずれ進行してくることに注意しなくてはいけません。
症状や心雑音もなく、健康診断でNT-proBNPを測定していなければ気がつくことはなかったでしょう。
幸い早期の発見のため、手遅れになる前に今後の方針や注意していただきたいことをしっかりとお伝えすることができました。

経過観察は心臓超音波検査と血圧測定の3ヶ月おきに設定しました。

この子は幸い、肥大型心筋症の早期の段階でステージB1のため治療は必要ありませんでしたが、ステージB2(左心房が大きくなってくるころ)からは血栓症の予防が必要になります。血栓症は非常に予後が悪く、一度発症すると助けてあげることが非常に難しい病気です。
予防開始をするべき時期を見逃さないように、ステージB1という無症状の時期であっても定期的に検査をすることが大切です。

また、ステージB1には左室流出路障害というのが重度にみられる場合にも治療が推奨されます。これは次の症例紹介で触れさせていただきますね。

猫の肥大型心筋症やその他の心筋症に関する検査のタイミングや診断・治療について、詳しくは以下もご参照ください。