「生まれつき心臓が悪い?」代表的な先天性心疾患を5つ紹介

先天性心疾患とは、生まれつき心臓や血管の構造の一部が、正常とは違う病気のことを指します。

種類によって全く症状を示さない場合や、重篤な症状を示す場合など様々です。

今回はその中でも代表的な先天性心疾患を5つほどお話しします。

心室中隔欠損(VSD)

心室中隔欠損とは、犬と猫で比較的よく遭遇する心奇形の一つです。左心室と右心室の間の心室中隔に欠損孔が存在している疾患で、欠損孔を通して、本来であれば交わらない血流(左心室から右心室への血流)が生じます。欠損孔の大きさによって症状の程度は様々です。

【症状】

欠損孔の大きさによって異なりますが、診断時は無症状であり偶発的に発見されることもあります。また、成長に伴い自然と穴が閉鎖する場合もあります。一般的な症状として、疲れやすさ・鬱血性心不全(咳・呼吸頻拍・肺水腫など)が見られます。重症例では、欠損孔を通して酸素化されない血液が全身にまわりチアノーゼを生じる可能性があります。

【治療】

軽度であれば治療は必要ではありません。治療法としては内科療法と外科療法とがあります。

内科療法・・欠損孔からの左心室から右心室へ通る血流を減少させるために動脈拡張薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬やカルシウムチャネル拮抗薬など)を使用します。

外科療法・・唯一根治が期待できる治療法です。コイルやAmplatzerにより欠損孔を閉鎖するインターベンション、心臓血管バイパスを用いた開心手術により欠損孔を修復します。

荻窪桃井どうぶつ病院看板猫「ほうじちゃ」もこの心室中隔欠損が先天的にありましたが、治療は必要ない程度でした。今は元気いっぱいです!

心房中隔欠損(ASD)

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心房中隔欠損は、左右に心房を隔てている心房中隔に欠損孔が見られる先天性心疾患です。心室中隔欠損と同様に交わることない血流が欠損孔を通して繋がり、血流の流れに異常が生じます。しかし、心室と比較して心房の圧は低いため欠損孔が小さい場合は大きな血流異常は生じません。欠損孔の位置によって一次孔型、二次孔型、静脈洞型、冠静脈型に分類されます。

【症状】

軽度であれば、血流に異常は生じず、臨床症状も示さないことが多いです。中等度〜重症例になると、疲れやすさ・咳・失神などが見られ、重症例になるとチアノーゼを生じることがあります。

【治療】

欠損孔が小さい場合は、治療の必要はありません。治療法としては内科療法と外科療法があります。

内科療法・・利尿剤・肺血管拡張薬などを用いて右心不全に対する治療を進めます。

外科療法・・左房から右房へと血流が流れている場合は外科の適応例になります。しかし、右房から左房へと血流が流れるアイゼンメンジャー症候群へと進行している場合は、重度の右心不全を引き起こすために手術は禁忌となります。

動脈管開存症(PDA)

胎仔循環(胎児の際の血流の流れ方)に必要な動脈管(下行大動脈と肺動脈とを連結しているバイパス血管)は出生後自然に閉じていきます。しかし、この動脈管が閉鎖せずに残っている状態を動脈管開存症と言います。一般的に初期は、大動脈から肺動脈へと血流が流れる左右短絡が生じますが、病気が進行すると肺静脈から大動脈へと血流が流れる右左短絡が生じチアノーゼが生じます。

【症状】

左右短絡時・・初期では症状はあまり見られません。その後、発育不良・運動後の咳・睡眠時の咳。また左心不全による肺水腫を引き起こし、呼吸促進や運動不耐性などが見られる場合があります。

右左短絡時・・失神・努力性呼吸・運動不耐性・腹水などが見られ、慢性化すると赤血球が異常に増える多血症が生じることがあります。

【治療】

動脈管開存症は早期に発見できれば手術による根治が望めます。左右短絡と右左短絡(進行症例)によって治療法が変わってきます。

左右短絡・・根治は外科手術になります。開胸下での動脈管結紮術、カテーテルにより塞栓物質を動脈管に移植するカテーテル塞栓術があります。肺水腫を伴う場合は利尿薬を中心とした内科療法を行なったのちに外科手術を行います。

右左短絡・・外科手術により動脈管を閉鎖すると、肺血管抵抗をさらに高める要因となるため、手術は不適応になります。肺血管拡張薬を用いた対症的内科療法が中心となります。

大動脈狭窄(AS)

大動脈狭窄は、大動脈弁の領域が狭くなり、血液の流れが阻害される先天性疾患です。狭窄の部位によって弁上部、弁部、弁下部に分類され、その中で弁下部での狭窄が最も多いです。狭窄を起こしているので、全身に必要な血液を送るために心臓は強い力を必要とし、左心系に負荷がかかり病態が悪化していきます。

【症状】

軽度の場合は症状は認められないですが、中等度〜重症例では心拍出量の低下に伴う運動不耐性・失神などが見られます。突然死をする可能性もある病気です。病態が進行すると、鬱血性心不全の病態が合併し、肺水腫や咳などが見られる場合があります。

【治療】

支持療法、内科療法、外科療法があります。

支持療法・・軽度な場合では治療は必要ではありません。運動制限やケージレストなどで様子を見ていく場合もあります。

内科療法・・心拍数を減少させ、心筋の酸素消費量を減少させるために一般的にβ受容体(心筋収縮に関与する受容体)遮断薬を使用します。

外科療法・・カテーテルによって狭窄の部位を広げます。しかし、狭窄の解除は一時的で、再狭窄することが多いです。

肺動脈狭窄(PS)

肺動脈狭窄とは、右心室から肺へ血流を送り出す部分に狭窄が生じる先天性疾患です。小型犬に多く見られ、まれに猫でも見られます。狭窄の部位によって弁上部、弁部、弁下部に分類され、その中で弁部での狭窄が最も多いです。狭窄を起こしているので、肺に必要な血液を送るために心臓は強い力を必要とし、右心系に負荷がかかり病態が悪化していきます。

【症状】

ほとんどは診察時に無症状ですが、進行した重症例では運動不耐性・失神・腹水・頸動脈拍動といった右心不全の症状を示します。また、重症例では、三尖弁閉鎖不全症・不整脈・鬱血性心不全などを合併することがあります。突然死をする可能性もある病気です。

【治療】

運動制限などの支持療法に加え、内科療法と外科療法があります。

内科治療・・β受容体遮断薬を使用します。鬱血症状が見られる際は、利尿剤も追加で使用する場合が多いです。

外科治療・・バルーンカテーテルにより狭窄部を拡張するバルーン弁形成術、人工心肺を用いて行う右室流出路拡大形成術などがあります。

ほうじちゃと同じく看板犬の「こぶちゃ」も肺動脈弁狭窄症が先天的にありましたが、6ヶ月齢の時に心臓カテーテルを用いたバルーン弁口拡大術を行い、今はとても元気です!

まとめ

ワンちゃん、ネコちゃんの先天性疾患の代表的な5つを紹介しました。子犬・子猫を受け入れた際には先天性疾患に注意しましょう。


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