猫の吸収病巣について

こんにちは。今回は猫の口腔内の疾患として、「吸収病巣」についてお話しします。吸収病巣は猫ちゃんによく見られる歯の疾患の一つで、早期に発見し適切に治療することで、愛猫の健康を守ることができます。吸収病巣の原因、症状、治療法について詳しく説明します。

吸収病巣は、歯の硬い組織(エナメル質や象牙質)が徐々に破壊され、吸収されていく病態です。これにより、歯の構造が脆弱になり、最終的には歯が折れたり抜けたりすることがあります。吸収病巣は特に猫に多く見られ、その原因は完全には解明されていませんが、いくつかの要因が関与していると考えられています。

この黄色で囲った歯が典型的な吸収病巣の肉眼所見です。
歯の上に赤いものが被さっています。

この左奥の歯の汚れをとると…

このように歯に穴が開いていました。これが吸収病巣です。

原因

吸収病巣の正確な原因はまだ明らかではありませんが、以下のような要因が関与しているとされています。

1. 遺伝的要因
吸収病巣は一部の猫種に多く見られるため、遺伝的な要因が関与している可能性があります。特に、アビシニアンやシャム猫などの猫種でよく報告されています。

2. 免疫系の異常
一部の研究では、免疫系の異常が吸収病巣の発生に関与していることが示唆されています。免疫系が歯の組織を異物として認識し、攻撃することが原因とされることがあります。

3. 口腔内の慢性的な炎症
歯周病などの口腔内の慢性的な炎症が、吸収病巣の発生を促進することがあると考えられています。炎症が歯の組織を破壊し、吸収が進むことがあります。

症状

吸収病巣がある場合、猫には以下のような症状が見られることがあります。

1. 痛みや不快感
吸収病巣が進行すると、歯が痛んだり不快感を引き起こすことがあります。猫が食事を避けたり、片側の歯でしか食べ物を噛まなかったりすることがあります。

2. 食欲不振
痛みや不快感のために食欲が低下し、体重が減少することがあります。

3. 過剰なよだれ
痛みや不快感のために、よだれが増えることがあります。

4. 口臭
吸収病巣が進行すると、口臭がひどくなることがあります。これは、組織が破壊されることで悪臭が発生するためです。

5. 歯の変色や欠損
吸収病巣が進行すると、歯が変色したり、欠けたりすることがあります。これにより、見た目にも異常が確認できることがあります

診断

吸収病巣の診断は、獣医師による詳細な口腔内の検査とX線検査によって行われます。X線検査では、歯の内部の異常や病変の存在を確認することができます。また、場合によってはCTスキャンなどの高度な画像診断が必要になることもあります。

治療

吸収病巣の治療は、病変の進行具合や猫の全体的な健康状態に応じて異なります。主な治療法は以下の通りです。

1. 抜歯
吸収病巣が進行し、歯が保存不可能な状態にある場合には、抜歯が必要になることがほとんどです。抜歯により、痛みや不快感を取り除くことができます。

2. 鎮痛薬の投与
吸収病巣が進行し、痛みがある場合には、鎮痛薬を使用して痛みを緩和します。これは、猫ちゃんの生活の質を向上させるために重要です。

3. 抗生物質の投与
吸収病巣が感染を引き起こしている場合には、抗生物質を使用して感染を制御することが必要です。ただし、抗生物質だけでは吸収病巣を完全に治療することはできませんので、根本的な治療と併用します。

予防

吸収病巣を完全に予防する方法は現時点では確立されていませんが、以下のようなポイントに注意することで、リスクを減少させることができます。

1. 定期的な歯のチェック
定期的に獣医師に歯の検査を受けることで、早期に問題を発見し治療することができます。

2. 適切な口腔ケア
猫用の歯ブラシと歯磨き粉を使用して、定期的な口腔ケアを行いましょう。これにより、歯垢や歯石の蓄積を防ぐことができます。

3. 適切な食事
歯の健康に良いとされる食事を選びましょう。硬いドライフードは歯垢を減らすのに役立つことがあります。

4. 口腔内の炎症の管理
歯周病などの口腔内の炎症を早期に発見し、適切に管理することが重要です。

まとめ

吸収病巣は猫の健康に深刻な影響を与える可能性がありますが、早期発見と適切な治療によって、多くの問題を回避することができます。日常的な口腔ケアと定期的な獣医のチェックを欠かさずに行い、愛猫の健康を守りましょう。吸収病巣についての疑問や心配事がある場合は、いつでもお気軽に当院にご相談ください。専門のスタッフが丁寧に対応いたします。

荻窪桃井どうぶつ病院
獣医師 山本倫大