
はじめに
こんにちは。荻窪桃井どうぶつ病院勤務医の、稲見です。
今回は、犬猫の高血圧について解説していきます。
高血圧症とは
まず、血圧について解説していきます。
血圧とは、心臓から送り出された血液が血管の壁を押す力のことです。血圧は、心拍出量×末梢血管抵抗で表すことができます。心拍出量は1回心拍出量と心拍数の積で表すことができ、1回心拍出量は前負荷、後負荷、心収縮力が関与しています。
上記からもわかるように、血圧には血液量や心機能、血管壁の弾性や血液の粘稠度など、さまざまな要因が関与しています。
また、神経やホルモンの活性化なども関与しており、これら複数の因子によって血圧は維持されます。
高血圧症とは、何らかの原因で上記の機能が破綻してしまい、血圧が持続的に上昇してしまう状態のことです。
慢性的な、または重度な高血圧では、標的臓器障害(TOD)といった、以下のような高血圧による特定の臓器障害を引き起こす可能性があります。
- 眼:網膜剥離、眼内出血などによる失明
- 腎臓:蛋白尿の出現など
- 神経:高血圧性脳症による脳障害(性格の変化、発作、元気消失など)
- 心臓:心筋の肥厚など
高血圧症ではこれらの標的臓器障害が問題になりますので、早期発見、早期の治療介入が重要です。
高血圧症の原因
高血圧症は、本態性高血圧(一次性高血圧)と、基礎疾患による二次性高血圧に分類されます。
本態性高血圧は、ヒトでは遺伝や生活習慣、環境要因などが関与しており、発生率が高いです。しかし、犬猫では本態性高血圧の発生率よりも、二次性高血圧の発生率が高いです。猫では高血圧症の13〜20%が本態性高血圧であると言われており、犬ではさらに発生率が低いです。
二次性高血圧の原因としては
- 腎臓疾患
- 副腎皮質機能亢進症
- 甲状腺疾患
- 糖尿病
- 褐色細胞腫
- 原発性高アルドステロン症
これらの疾患が挙げられます。
また、診察室での興奮や緊張、いわゆる「白衣現象」によって一過性に高血圧となる場合もあります。これを状況性高血圧といい、病的な高血圧とは区別されるため、治療の必要はありません。
診断
高血圧症の診断には、血圧の測定を行います。
血圧の測定方法にはいくつか種類があり、動脈に直接カテーテルを挿入して血圧を測定する観血的動脈圧測定と、後述する非観血動脈圧測定があります。
観血的動脈圧測定は、リアルタイムで正確な値を測定することができますが、鎮静や麻酔が必要となる場合が多いです。そのため、手術中の血圧測定に用いられることがほとんどです。
非観血的動脈圧測定には、コロトコフ法、超音波ドプラ法、オシロメトリック法などの測定方法があります。多くの場合は、簡易に血圧測定を行うことができるオシロメトリック法が用いられます。
測定の結果、収縮期血圧が140 mmHg以上の場合、高血圧と診断されます。また、以下のように数値によって重症度の分類をしていきます。(ハウンド系は他の犬種と比べて約10〜20mmHg 程度高くなると言われています。)
正常血圧(TODリスク最小):収縮期血圧<140mmHg
前高血圧(低いTODリスク):収縮期血圧140~159mmHg
高血圧(中程度のTODリスク):収縮期血圧160~179mmHg
重度の高血圧(高いTODリスク):収縮期血圧≧180mmHg
また、高血圧が見つかった場合、高血圧による標的臓器障害が起こっているかどうか、高血圧の原因となるような基礎疾患はないかなど、総合的に検査を進めていきます。
測定方法
普段の診療で行っている血圧測定(オシロメトリック法)について、写真付きでご説明いたします。

今回は病院の看板犬である、こぶちゃ君に協力していただきました🐶

このように伏せの状態で尻尾にカフを巻きます。

場合によっては横向きにして前肢や後肢にカフを巻き、測定することもあります。

結果が出ました。こぶちゃ君の血圧は正常です。
このような測定を複数回(5〜7回)行い、平均値をとります。
中には、最初は興奮して高血圧になってしまうものの、測定しているうちに診察室や検査の状況に慣れてきて、正常な血圧になってくる場合もあります。
また、当院では超音波ドプラ法による血圧測定も実施しております。

超音波ドプラ法による血圧測定
治療
まず、少しでも血圧が高いからといってすぐに治療が必要なわけではありません。
興奮などによって一過性の高血圧になっている場合もありますので、標的臓器障害が起こっていなければ日をあけて再検査を行います。
高血圧症の治療では、降圧剤による内服治療がメインになります。
降圧剤にはいくつか種類があります。
- ACE阻害薬(エナラプリル、ベナゼプリルなど)
- アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(テルミサルタン)
- カルシウムチャネル拮抗薬(アムロジピン)
これらの薬を状況によって使い分け、場合によっては併用することもあります。
これらの薬を使用しても血圧が下がらない場合には、他の薬剤(利尿剤、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、β遮断薬、α遮断薬など)の使用を検討することもあります。
原因疾患がある場合にはそちらの治療も同時に進めていきます。
また、標的臓器障害が起きており緊急性が高い場合には、注射薬での治療が必要なこともあります。
最後に
犬猫の高血圧症は、明らかな標的臓器障害を起こしていない限り、症状として現れづらい病気です。
健康診断で血圧測定を行い、高血圧症の早期発見、早期治療をしていくことが重要となります。
高血圧症でお困りの方や、健康チェックとして血圧測定を行いたい方など、何か気になることがございましたらお気軽に当院へご相談ください。
執筆 獣医師 稲見 光起
監修 院長 木﨑 皓太



