ハムスターの不正咬合(ふせいこうごう)ガイド|伸びすぎた歯の症状・原因・治療費を獣医師が徹底解説

ハムスターを飼育している中で、「急にごはんを食べなくなった」「口の周りが汚れている」といった異変を感じたことはありませんか?それは、ハムスター特有の病気「不正咬合(ふせいこうごう)」かもしれません。
ハムスターの歯は一生伸び続けるため、噛み合わせがズレると命に関わる重大なトラブルに発展します。本記事では、不正咬合の初期症状から予防法、動物病院での治療費の目安まで、飼い主さんが知っておくべき情報を網羅して解説します。
1. ハムスターの不正咬合とは?歯が伸びすぎるメカニズム
ハムスターの切歯(前歯)は「常生歯」と呼ばれ、一生伸び続ける性質を持っています。通常、上下の歯が適切に重なり合い、食事や毛づくろいの際に削り合うことで一定の長さを保っています。
しかし、何らかの理由で上下の噛み合わせがズレてしまうと、歯が削られずに伸び続け、口の中を傷つけたり食事がとれなくなったりします。これが「不正咬合」の状態です。
不正咬合の主な原因
- ケージの金網を噛む癖: 最も多い原因です。金網を引っ張ることで歯根(歯の根元)が歪みます。
- 落下や衝突による外傷: 衝撃で歯が折れたり、顎の骨がズレたりすることで発生します。
- 不適切な食事: 柔らかいものばかり与えると、歯を削る機会が失われます。
- 加齢・遺伝: 高齢による筋力低下や、生まれつきの骨格異常も原因の一つです。
2. 【初期症状】見逃してはいけない不正咬合のサイン
ハムスターは捕食される側の動物であるため、体調不良を隠す習性があります。飼い主さんが以下のサインに気づいた時には、すでに重症化しているケースも少なくありません。
早期発見のためのチェックリスト
- 食べ方がおかしい: 「ごはんを残す」「食べ物を口に運ぶがすぐ落とす(食べこぼし)」が見られる。
- よだれ・口臭: 口が閉じられず、口の周りや胸元の毛が常に濡れている。
- 体重の減少: 見た目では分からなくても、体重計(キッチンスケール)で測ると激減している。
- 顔の変形・涙: 伸びた歯が鼻の奥(鼻腔)や目の奥を圧迫し、鼻水や涙目、顔の腫れを引き起こす。
- 毛並みの悪化: 歯が痛くて自分の毛づくろいができなくなり、毛がパサつく。
- 呼吸が苦しい: 歯が口の上側に突き刺さると、呼吸が苦しくなることがある。
3. 動物病院での治療内容と費用の目安
不正咬合は自然治癒しません。放置すると、伸びた歯が頬や舌に刺さる「口腔内潰瘍」や、細菌感染による「根尖膿瘍(こんせんのうよう)」を引き起こし、最悪の場合は餓死に至ります。
しかし、適切なタイミングで不正咬合を診断し治療することで、問題なく普段の生活を送れるようになることがとても多いです。
治療内容:歯切り(トリミング)
動物病院では、専用のニッパーやマイクロエンジンを使用して、適切な長さに歯をカットします。

実際に当院で使用している切歯カッターです。
- 処置時間: 5分〜15分程度(暴れる場合は鎮静・麻酔が必要なこともあります)
- 通院頻度: 1ヶ月〜2ヶ月に1回の定期的なカットが必要になるケースが一般的です。
費用の相場
- 初診料・再診料: 1,000円〜2,000円
- 歯切り処置料: 1,000円〜3,000円
- 合計目安: 約3,000円〜6,000円前後 ※麻酔や抗生剤の処方がある場合は、さらに数千円加算されることがあります。上記のお値段は1つの目安なので、詳細に関しましてはご相談ください。
【重要】自分で切るのは絶対にNG! 人間用の爪切りで切ろうとすると、歯が縦に割れて歯髄炎(神経の炎症)を起こし、激痛や化膿の原因になることがあります。必ずハムスターの診察実績がある獣医師に依頼してください。
4. 不正咬合を防ぐ!飼育環境の改善ポイント
不正咬合を予防、あるいは悪化させないためには、日常の飼育環境の見直しが不可欠です。
金網ケージから「水槽・プラスチックケージ」へ
金網を噛む習慣がある場合、どれだけ治療しても再発します。噛む場所のないガラス水槽やアクリルケージ、衣装ケースへの切り替えが最も有効な対策です。
硬いペレットを主食にする
ミックスフードに含まれる種子類や柔らかいおやつを減らし、栄養バランスの取れたハードタイプのペレットを主食にしましょう。しっかりと咀嚼することで、歯の健康維持につながります。
かじり木の工夫
かじり木を置くだけでなく、ハムスターが興味を持つ素材(ヘチマ、乾燥コーン、太枝など)を探してあげましょう。
5. 当院での不正咬合症例
実際に当院に来られた症例をご紹介いたします。
1週間ほど硬いものが食べられないとのことで来院されたジャンガリアンハムスターです。
口腔内を観察すると、上の切歯が片方過長しており、不正咬合になっていることがわかりました。
右上顎切歯の過長(上写真)
そのため、長い方の切歯を切除し、長さを整えました。

治療後の様子(上写真)
その後、硬いものも食べられるようになり、食欲が増加しました。
この症例はその後、定期的に不正咬合を繰り返していたため、都度歯切りを行いました。
6. まとめ:毎日の観察が愛ハムの命を救う
ハムスターにとって、歯のトラブルは食事=生命維持に直結する死活問題です。
- 毎日の「体重測定」と「食事量のチェック」を習慣にする
- ケージの噛み癖を放置しない
- 違和感があれば、迷わずエキゾチックアニマルの名医を頼る
この3点を守ることで、不正咬合のリスクを最小限に抑え、愛ハムと長く健康に過ごすことができます。少しでも「おかしいな?」と感じたら、早めに専門家のアドバイスを受けましょう。
また、当院ではハムスターの診察を行っております。ハムスターの不正咬合、体調など、お困りごとがございましたら当院へご相談ください。
※曜日によってはハムスターの診察が不可能な日もございますので、詳細に関しましては事前にご相談ください。
執筆 獣医師 稲見 光起
監修 院長 木﨑 皓太


