猫の心室中隔欠損症(VSD)完全ガイド|症状・最新治療・寿命を獣医師がわかりやすく解説

猫の心室中隔欠損症(VSD)完全ガイド|病態・症状・診断・最新治療・寿命を獣医師がわかりやすく解説

「愛猫の心臓に穴が開いていると言われた……」 そんな不安を抱える飼い主さんのために、猫の心室中隔欠損症について、獣医師として最新の情報をまとめました。

猫の生まれつきの心臓病の中でも特に多い「心室中隔欠損症(VSD)」。適切な診断とケアを行えば、多くの猫が健やかな一生を送ることができます。病態から日々のケアまで、詳しく解説します。


1. 【病態】心室中隔欠損症(VSD)とは?なぜ起きる?

心臓の中で起きていること

猫の心臓は右と左に分かれていますが、その間を仕切る壁(心室中隔)に穴が開いている状態です。 通常、左心室は高い圧力で全身に血液を送りますが、穴があると血液が右心室へ漏れ出してしまいます。この漏れた血液が再び肺へ送られるため、肺と心臓に過剰な負担がかかってしまうのです。

また、左心室から右心室に血液が漏れていることを「左右短絡」と言います。

右心系や肺の血管に負担がかかり、右心室の圧力が左心室の圧力より高くなると、右心室から左心室へ血液が漏れることもあります。これを「右左短絡」と言います。右左短絡の場合、肺動脈の圧力が高くなる「肺高血圧症」や、右心系に負担がかかるようなその他の心臓奇形を合併している可能性があります。

発生の原因と背景

  • いつ起きる?: 母体の体内で妊娠してから出生するまでに、心臓を含めた身体構造が形成されていきます。その過程を「発生」と呼びます。発生の過程の中でエラーが起こることにより、心室中隔に穴が空いた状態で出生します。

  • 猫での多さ: 猫の生まれつきの心臓病の中で約20%〜56%を占めると報告されています。


2. 【症状】飼い主が気づける「SOS」のサイン

軽度の心室中隔欠損症では無症状のことが多く、ワクチン接種時の「心雑音」で発覚するのが一般的です。以下のサインがあれば、心臓の負担が大きくなっている可能性があります。

  • 疲れやすい: 少し遊ぶとすぐに座り込む、ハァハァと苦しそうにする。

  • 呼吸の異変: 寝ている時でも呼吸が速い、口を開けて呼吸する。

  • 重症化のサイン: 舌が青白くなる(チアノーゼ)、常に呼吸が苦しそうなど。


3. 【診断】心臓の状態をマルチに評価する検査

治療方針を決めるためには、エコー検査だけでなく、多角的な検査で心臓の「今」を把握する必要があります。

  • 心エコー検査(超音波): 心室中隔欠損症の診断において、一番重要な検査です。心臓に穴が空いているかを見ることができます。また、心臓の大きさや形態、血液の流れなどを見ることにより、重症度の判断を行います。お薬で様子を見るか、手術を検討するかの判断に最も重要です。

  • X線検査(レントゲン): 心臓全体の大きさや、肺や胸に水が溜まっていないかを確認します。「肺水腫」などの合併症をいち早く見つけるために不可欠です。

  • 心電図検査: 心臓に負担がかかると「不整脈」が起きやすくなります。心拍のリズムに乱れがないかを詳しく調べます。

  • 血圧測定: 高血圧は心臓への負担をさらに増大させるため、治療薬の量を決める指標にもなります。

また、場合によっては上記以外の検査を実施することもあります。


4. 【治療:経過観察】治療を必要としないケースが多い

心室中隔欠損症(VSD)と診断された猫ちゃんの多くは軽症であり、すぐには治療を必要としないことが一般的です。

  • 生涯無症状で過ごせる可能性 欠損(穴)が小さく、肺や心臓への血流負担が一定以下であれば、心臓の機能が維持されます。この場合、治療を行わなくても、心臓に異常のない猫ちゃんと同じように健康な一生を送れる可能性が非常に高いと報告されています。

  • 「自然閉鎖」の可能性 子猫の時期に発見された場合、成長とともに心臓の筋肉が発達し、開いていた穴が自然に塞がったり、小さくなったりすることがあります。

  • 定期検査の重要性 「治療が不要=放置して良い」というわけではありません。加齢や体格の変化に伴い、心臓への負担が変わることがあるため、数ヶ月〜1年に一度のエコー検査で状態をチェックし続けることが推奨されます。


5. 【治療:内科】お薬で心臓の負担を軽くする

症状がある場合や、心臓の拡大が見られる場合は、お薬による治療を開始する場合もあります。

  • 血圧を下げる薬: 全身の血圧を適切にコントロールし、穴から漏れる血液の量を減らします。

  • 利尿剤: 体の余分な水分を排出し、肺に水が溜まるのを防ぎます。

  • 肺血管を拡張するお薬: 肺高血圧症を合併している場合には、肺血管拡張薬を使用する場合もあります。
  • その他: また、心臓の状態によっては血栓を作りにくくするお薬や、心臓の動きを強くするお薬を使用する場合もあります。

6. 【治療:外科】最新の手術選択肢(根本治療を目指して)

近年、少数ではありますが、猫でも「心臓の穴を塞ぐ」手術の報告がされております。重症度や猫ちゃんの状態(体格など)によっては、手術が適応になるケースもあります。


7. 【予後】心室中隔欠損症の寿命は?

心臓に穴がある」と聞くと、短命なのではないかと不安になるかもしれません。しかし、心室中隔欠損症(VSD)の予後は、「穴の大きさと位置」によって大きく異なります。

  • 軽症(欠損が小さい)の場合: 多くの猫が一般的な猫と変わらない天寿を全うできます。心臓への負担が少なければ、生涯にわたって無症状で過ごすことも珍しくありません。
  • 中等症〜重症の場合: 心臓の状態によって予後は様々です。適切な管理と、治療介入のタイミングを身長に見極めることが重要です。近年では、外科手術の成功例も少数ではありますが報告されています。

獣医師の視点: 統計的には、診断時に無症状であれば10年以上の長期生存率が非常に高いというデータもあります。大切なのは「寿命が決まっている」と考えるのではなく、定期検査で「今の心臓のステージ」を把握し、変化にいち早く気付いてあげることです。


7. 【日々のケア】愛猫と長く穏やかに暮らすために

自宅でできる「命を守るケア」

  1. 安静時の呼吸数を測る: 寝ている時の1分間の呼吸数を記録しましょう。30回以下が正常の目安です。

  2. 日々の体調管理:上記の呼吸数に加え、遊ぶことが少なくなった、食欲が落ちてきたなど、その他に体調の異常がないかを日々確認することが大事です。

  3. 定期的な通院: 症状がなくても、数ヶ月に一度は検査を受け、心臓の状態や血圧が変わっていないか確認することが大切です。


まとめ:早期発見と適切な管理が鍵

猫の心室中隔欠損症は、正しく理解し、適切な管理を行うことにより、愛猫との幸せな時間を長く守ることができる病気です。

「心臓に穴がある」と言われて不安な時は、一人で悩まずに、当院への相談を検討してみてください。

執筆 獣医師 稲見 光起

監修 院長 木﨑 皓太