お腹が張って苦しそう…|胃拡張胃捻転症候群の原因、症状、治療法について詳しく解説
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犬の胃拡張胃捻転症候群(GDV)は、犬の救急疾患の中でも特に緊急性が高い病気です。数時間、場合によっては数十分の遅れが命に関わることもあるため、飼い主が初期症状を知っておくことがとても重要です。
そのため今回は、GDVについて原因と症状、治療法などについて詳しく説明します。
胃拡張胃捻転症候群とは?
胃拡張胃捻転症候群とは、急性に胃の拡張と捻転が生じることで、後大静脈や門脈などが圧迫され、心臓にうまく血液が流れなくなる重篤な疾患です。単にお腹が膨れて苦しいという疾患ではないので早期治療がかなり大切になってきます。

<原因>
GDVになるはっきりとした原因は解明されていませんが、体型やご飯の食べ方など複数の要因が重なることで引き起こされると考えられています。
①胸が深い犬種
グレート・デーンやジャーマン・シェパード・ドッグといった胸の深い大型犬は、解剖学的に胃の変位が生じやすいため若齢〜高齢まで発症年齢が幅広くなっています。また、小型犬だとミニチュア・ダックスフンドが多いと言われていますが、小型犬の場合は加齢に伴う消化管の機能低下などが影響しているため発症年齢が大型犬とは異なります。
②食事や水の取り方
早食いをする子はフードと共に大量の空気も飲み込んでいる恐れがあるため、胃が拡張しやすくなります。
③運動や環境
食後すぐに激しい運動を行うことで胃にガスや体液が溜まりやすくなります。また、運動後やストレス等による緊張や興奮で呼吸が早くなると空気を飲み込んでしまうため胃が膨らみやすくなります。
<症状>
症状は急速に進行します。
初期症状
- 吐きそうで吐けない(空嘔吐)
- 落ち着きがない
- お腹が急に膨らむ
- 何度も立ったり座ったりする
- 苦しそう
- よだれが大量に出る
進行すると
- 呼吸が速い
- 元気消失
- 歯ぐきが白い
- 足先が冷たい
重症になると
- ショック
- 意識低下
- 倒れる
- 心停止
またショックにはさらに4つの病態に分類されます。
| 循環血液量減少性ショック | 酸素を運ぶ血液量がそもそも不足している状態 |
| 血液分布異常性ショック | 末梢の動脈や静脈が異常に拡張して血液量が不足する状態 |
| 心原性ショック | 心筋症や重度の不整脈等で心拍出量は低下する状態 |
| 閉塞性ショック | 心臓にうまく血液が流れないことにより心拍出量が低下する状態 |
GDVは胃が大きくなることで、大静脈が圧迫され、心臓へ血液が送れなくなるので、主に閉塞性ショックを起こしやすいと言われています。
しかし、捻転の影響で胃の噴門側(胃の入口付近)と脾臓をつなぐ血管が破綻することで、大量の腹腔内出血を起こして循環血液量が減少する恐れもあり(循環血液量減少性ショック)、また消化管粘膜が障害されることで細菌感染が起き、敗血症が発症し、血液量が不足する恐れもあります。(血液分布異常性ショック)
さらに、GDV発症から3~6時間は不整脈を起こしやすい(心原性ショック)ので全てのタイプのショックを起こす可能性が考えられます。
<検査内容>
①身体検査
GDVは前述にもある通り、さまざまなショックを起こすため意識レベルや脈圧、CRT(口腔内の粘膜評価)などを確認し、どの程度症状が進行しているか把握する必要があります。
②X線検査
GDVの診断には最も有用な検査になります。ガス貯留した胃が捻ることでガスが区画化されていたり、胃が膨張している様子が見られます。また、胸部撮影だと心陰影が小さく、後大静脈が細く撮影されることがあり、腹部撮影だと脾腫や腹水の有無も確認することができます。
<ミニチュアダックスフンドの胃拡張(胃ガス・胃内容物抜去前と後)>



<大型犬のGDV整復前(ポパイサイン)と後>



③エコー検査
胃の現状把握や腹腔内出血などの合併症が生じていないか、心室内腔の大きさや僧帽弁閉鎖不全症などの心疾患の有無を確認するために実施します。また、脾腫や脾静脈の拡張、脾臓の血流低下などは脾捻転を起こす原因にもなるので注意が必要です。
④血液検査
ショックに基づいた臓器障害の評価や全身状態の評価のためにスクリーニングとして、一般的なCBC、血液化学検査に加え、凝固系検査や乳酸値(※)測定などを実施します。
※乳酸値は運動による筋肉の疲れや、体内の酸素が不足することで産生される物質なのですが、胃壁の壊死にもある程度関与があるとも報告されています。
また、GDVにおいて乳酸値6.0mmol/L以上の症例では、死亡率が42%まで上がると言われています。(正常値2.5mmol/L未満)
⑤心電図検査
GDVが発症すると心筋の虚血・低酸素などにより、不整脈(心室期外収縮)が生じることがあるので、その有無を確認するために実施します。
<治療>
① 胃の減圧
超音波で周囲の臓器を傷つけないように気をつけながらお腹から針を刺して(胃穿刺)、胃ガス・胃内容物抜去を実施します。また、経鼻カテーテルを胃まで通して減圧することもあります。
他にも経口胃チューブを用いることもありますが、これに関しては全身麻酔が必要になってくるのでショック状態の子に麻酔をかけることはかなりリスクがあるため、初期治療としては推奨されていません。
② 静脈内輸液
急な胃の減圧は腹圧の低下と共に急な血圧変動や、最悪の場合、心肺機能停止をもたらす可能性もあるため、基礎疾患の有無にもよりますが、静脈留置を設置し、静脈輸液を開始します。
③ 外科療法
GDVで行われる外科療法は主に2種類あります。
- 胃洗浄
全身麻酔下で口から胃チューブを挿入し、胃の減圧やガス産生菌や発酵物などを除去するために実施します。しかし胃捻転が強固の場合、胃チューブの挿入が困難なこともあり、無理に挿入すると脆弱化している食道と噴門の移行部を穿孔してしまう恐れがあるため無理には実施しません。
- 胃の整復・固定術
開腹し、捻転が確認できたら手で優しく捻転を解除します。解除後は再度捻転が起きないように腹壁に固定します。捻転が強固であったなどの理由で胃壁が壊死している場合は、壊死部分を切除したり、胃内に陥入させるように縫合します。
また、脾腫や脾動静脈での血栓形成が見つかった場合、脾臓摘出も実施することがあります。
<予後>
過去の死亡率だと60%以上という報告があり、GDVは致死率の高い非常に危険な疾患だと言われていましたが、現在は治療法が普及したこともあり、10~18.7%程度に改善されているそうです。
しかし、それでも救命が困難な子が存在するのも事実であり、合併症が多い疾患なので、早期発見と治療がかなり重要になってきます。
<家庭でできる予防>
完全な予防法はありませんが、リスクを減らすことはできます。
- 食事を1日2~3回以上に分ける
- 早食い防止食器を使う
- 一気食いを避ける
- 食後1~2時間は激しい運動を控える
- 水を一度に大量に飲ませすぎない
- 適正体重を維持する
- リスクの高い犬種では、避妊・去勢手術など他の開腹手術時に予防的胃固定術を検討することもあります。
<まとめ>
以下の症状がそろったら、夜間であっても直ちに動物病院を受診してください。
- お腹が大きく張ってきている
- 吐こうとしているのに何も出ない
- 苦しそうに落ち着きなく歩き回る
- よだれが大量に出る
- 元気が急になくなる
- 呼吸が速い、歯ぐきが白い
胃拡張胃捻転症候群は、時間との勝負になる病気です。発症が疑われる場合は、自宅で様子を見るのではなく、できるだけ早く救急対応可能な動物病院へ連絡し、速やかに受診することがご自宅のわんちゃんの命を救う最も重要な行動です。
執筆:動物看護師 小田
監修:院長 木崎、獣医師 稲見


